saitou_ken_monogatari
11/30

である。入省するつもりはなく、様子見しておこう、という軽い気持ちであった。ところが、会う人、会う人、みな魅力的なひとばかりであった。信念に基づいて自分の意見をはっきりと口にする。「おれは、こうすべきだと思っている。それが公のためなんだ」彼らの仕事に対する熱い思いを聞かされた斎藤は、その迫力に圧倒された。〈正しいのかどうかはわからないが、とにかく説得力がある〉斎藤は、通産省のことをもっと知りたいという衝動にかられた。そこで、通産省を舞台に使命感に燃える異色官僚であった事務次官の佐橋滋をモデルにした闘いを描いた城山三郎の小説「官僚たちの夏」、アメリカの国際政治学者チャルマーズ・ジョンソンが戦後日本の高度経済成長が通産省主導による産業政策を通して達成された点を指摘した著書「通産省と日本の奇跡」を購入し、むさぼるように読んだ。斎藤が訪問した官庁は、環境庁と通産省の2省庁だけであった。幸いなことに、いずれも内定を得た。官庁訪問をする前なら、よろこんで環境庁に決めたであろう。が、斎藤の脳裏に通産省の課長補佐クラスの顔が蘇った。斎藤は、迷った。〈どちらにしようか……〉自分は、やはり環境問題をやるべきなのではないだろうかという思いと、産業経済を力強く発展させてきた通産省で働いてみたい、という思いが交錯した。迷いに迷った末、結論を出した。〈通産省に入ろう〉こうして、昭和58年4月、斎藤は、通産省に入省した。最初に配属されたのは、資源エネルギー庁の総務課であった。9さいとう健けん物語

元のページ 

page 11

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です