saitou_ken_monogatari
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埼玉県副知事の斎藤は、決意した。〈思い切って挑戦しよう〉斎藤は、政治に熱い思いを抱いていた。社会が大きな岐路に立ち、時代が転換期を迎え動揺するという困難な局面は、何も1930年代以降の戦前史に思いを致さなくても、何年かに2度は巡ってくる。政治がやるべきこととして一番大事なことは、こういうときに、国が右へ行くのか左へ行くのか、つまり国の行く末について間違いのない決断することだ。戦後政治を振り返ってみても、吉田茂総理の吉田ドクトリン、岸信介総理の日米安保、池田勇人総理の所得倍増、佐藤栄作総理の沖縄返還、田中角栄総理の日中国交回復などなど、日本の将来の座標軸を決める重要な決定は、すべて政治の責任で行われてきた。こういう局面において、きちんとした歴史観、世界観、人間観をもった時代の政治家が、最後は私欲を捨てて国の将来を決してゆく、この機能がないと国や社会は漂流し、次世代が苦しむ。これは国民一人ひとりの運命を左右しかねない決定だから、国民から負託を受けていない官僚に委ねてはならない。いわんや学識経験者、メディアの類の人たちの役割でもない。国民によって選択されている政治のセクターのみが、苦しみながら背負わねばならない責任であり、政治の任にある者は、日々の政治活動にいそしみながらも、この点に関する判断力の洒養を怠ってはならない。斎藤は、今の日本は歴史的に見て半世紀に一度ぐらいの時代の転機にあると思っている。外を見れば、冷戦の発想で国際関係を判断すればよかった良き時代は過ぎ去り、複雑な外交ゲームの中で国益を守り抜いていかなければならない。つまりは、外交の力量と構想力が問われる時代に入っている。また、内を見れば、人口減少・高齢化が財政赤24

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