アメリカはどこへ?
『TPP離脱』
トランプ新大統領が誕生しました。
さっそく、TPP(環太平洋パートナーシップ)から永久に離脱するという判断が示されました。TPPは、さいとう健が農林水産副大臣として、あるいは自民党農林部会長として3年間にわたり苦労して、ようやく国会承認までこぎつけたものです。残念でなりません。
TPPは、世界銀行の分析によりますと、わが国の経済成長を2.7%押し上げ、輸出も23%増やすという、わが国の成長戦略にきわめて有効なものであるだけでなく、当然のことながらアメリカにとっても大いにプラスとなるものです。
わが国はこれまで、まず、アメリカを含む成長著しい環太平洋の12ヶ国が加わるTPPを実現する。そして、東南アジア10ヶ国と日中韓、インド、オーストラリア、ニュージーランドの16ヶ国からなるRCEP(アールセップ)と呼ばれる自由貿易地域。さらに、EUとの経済連携協定。これら三つを仕上げることによって、アメリカ、中国、インド、EUを全て取り込んだ経済 活力地域を作り上げることが、通商の大戦略でありました。その一番重要なTPPが崩れつつあります。そして、代わりに日米二国間で交渉しようというのがトランプ大統領の考えですが、日米二国間の協定は、TPPに代わるものとは到底なりません。可能性は低くなったとはいえ、最後までTPPというベストの道を追及していきたいと思います。
『報復合戦?』
また、トランプ大統領は、不法移民対策としてメキシコからの輸入品に高関税をかけるとか、メキシコに工場を作ってアメリカに輸出するような企業には高額の国境税をかけると主張しています。このことは、具体的内容にもよりますが、国際的な貿易ルールに反します。通商交渉に実際にたずさわってきた、さいとう健のこれまでの経験からいたしますと、メキシコも決してやられっ放しにはなりません。今度は、必ずメキシコがアメリカからの輸入品に高関税をかけて報復することになるでしょう。そうなると報復合戦です。
振り返れば、1929年の世界大恐慌後の世界は、自国産業を守るための高関税のかけ合いが一つの原因となって、第二次世界大戦に向かっていきました。その反省から、戦後GATT(ガット)という国際機関ができて、高関税のかけ合いをなくし、世界全体で関税はじめ貿易ルールを決めていこうとなったわけです。トランプ新政権がこれから行おうとしていることは、まさにいつか来た道になりかねないものではないでしょうか。
『どこに向かうのか。』
トランプ大統領。アメリカファーストを政権理念としています。世界のことはどうでもいいとまで言いませんが、とにかく自国のことが最優先。これまでのアメリカ大統領とトランプ大統領は大きく違って見えます。
このトランプ大統領をどう見ればいいのか。たまたま異質な方が大統領となったというふうにみるのか、あるいは、これからアメリカが内向き志向に変質を遂げていく、その前兆現象と見るべきなのか。
さいとう健は、1990年代の初め、アメリカで外交を専門に勉強しておりました。そのとき、東西冷戦が終わりました。冷戦後のアメリカは、ソ連との死にもの狂いの戦いのために西側諸国を応援していく必要もない、国力もだんだんと低下していく、いつまで世界の警察官としての役割を演じていけるか、いつまで通商の世界で大人の対応をしていけるか、異国の地で漠然とした不安を感じたものでした。
今回、トランプ大統領が選挙期間中を通じてこれまで示してきた態度は、まさに四半世紀前にさいとう健が感じた不安を思い起こさせるものでありました。
アメリカはどこに向かおうとしているのか。
国政の片隅にいる者として、過去の延長線上ではない対応を考える時期に来たのではないかと今思っています。