ウクライナ侵略から見る台湾有事
【ウクライナ侵略】
ウクライナで大変な事態が発生しました。昭和でもあるまいし、今どきこんなことが起こるなんて信じられないとお感じになられる方も多いことと思いますが、いまだにこれが現実だということを思い知らされました。
本件は世界史的に見て極めて重要な出来事であり、国政に携わるものとして重い責任を負っていると思うものですから、少々長くなるかもしれませんが、3月23日時点でのさいとう健の基本的な考えをお伝えしたいと思います。
【米国で安全保障を勉強】
さいとう健は、実は、米国留学中は安全保障を勉強しておりました。なぜなら、経済政策などは日本でも十分学べますが、安全保障はアメリカでしか本格的には学べないのではないかと、生意気ながら考えたからです。世界的に有名なブレジンスキー、ジョセフ・ナイ、カート・キャンベル、グラハム・アリソンなどの一流の方々の謦咳に接しながら、世界の発想と日本の発想がいかに違うかを痛感したものでした。しかも、留学中にサダムフセインによるクウェート侵略があり、アメリカが地上軍を送るという、目の前の厳しい事態にも直面しました。
そこで、ウクライナですが、少し回り道になりますが、台湾問題から入りたいと思います。さいとう健は、この台湾問題こそ、私が国会議員として直面する最も難しい判断になると思っておりますので。
【中国の悲願】
習近平国家主席率いる中国共産党にとりまして、台湾統一は必ず成し遂げねばならない悲願であります。でなければ、なんで、三隻もの空母を保有し、軍事力の強化に邁進するのか、理由がわかりません。
先日、ある海上幕僚長経験者の方に、中国があれほど軍事力増強する理由は何でしょうかとストレートに聞きましたら、その答えは、ひとこと、「台湾」でした。
いつの日か、必ず、何らかの形で中国は台湾に手を出すでしょう。そして、その時、アメリカは必ず座視はしない。そして、必ずアメリカは日本に協力を求めてくるでしょう。そのとき、日本はどうするか。台湾有事には、尖閣有事が当然含まれます。
ノーと言えば、日米同盟は崩壊します。
イエスと言えば、どうなるか。それは、中国を徹底的に敵に回すことに他なりません。人によっては、日本にある在日米軍基地が中国によって攻撃されるのではないかと言う方がおられます。確かに、台湾に米軍基地はありませんし、アメリカの行動は日本をベースにしたものにならざるを得ないわけですから、そこを中国が狙うのは軍事的には正解かもしれません。
【何が起こるか】
しかし、私は、その可能性は、すぐにはないのではないかと思います。そんなことをすれば、世界第一の経済大国と世界第三の経済大国を本気で敵に回すことになる。孫子の兵法を学んでいる中国がそんな愚かなことをするとは思えません。弱いところを叩けというのが孫子の兵法の極意なんですから。
例えば、中国にいる日本人ビジネスマンをスパイ容疑で逮捕し、5人10人に死刑判決を言い渡すなんていうことが起これば、わが国はどうなるでしょうか。なんで台湾のためにこんなことになるんだ、アメリカの言いなりだからこんなことになるんだと、国論が割れて沸騰するのは目に見えております。そうなれば、日本とアメリカの間を割くことができる、中国はそう考えるのではないでしょうか。その方が安上りですから。
そういう事態まで想定すると、アメリカから協力を求められた際に、イエスもノーも言えないといった状況にわが国の政治が追い込まれかねない。長年、自分の国を自分で守ることをしてこなかったツケが回ってきたと言ってしまえばそれまでですが、それはもう日本の政治の崩壊と言われても仕方がない事態であります。台湾有事はそういう意味での日本有事なのです。
ところで、この風景、どこかで見た風景だと感じませんか。そう、幕末の黒船来航です。黒船の要求を飲めば日本国内は大混乱、断れば江戸城砲撃。ときの徳川政権は、イエスもノーも言えないような状況に追い込まれ、イエスしかないだろうという強権的な井伊大老が出たりはしましたが、結局は大混乱の末、判断に窮した徳川政権は、天皇にその判断を委ねざるを得なくなりました。まさか、令和のこの時代に、天皇陛下に判断を委ねるわけにはいきません。私が国会議員の一人として最も困難な判断をしなければならないというのは、こういうことなんです。
【やはり電撃侵攻】
そういうこともあり、私は、台湾有事というのはどういう形になりそうかということを個人的に研究してきました。アメリカのシンクタンクなんかでは、どういうケースが想定され、アメリカはどう対応すべきかというシュミレーションが数多く行われてきております。その中で、最もありうるシナリオの一つが、電撃侵攻なんです。
ミサイルで台湾の軍事基地や、通信や電力などのインフラを攻撃して無力化し、強襲上陸して一か月以内に総統府を制圧できれば、アメリカの対抗措置は間に合わない。そうした上で、これは国内問題ですと中国が世界に表明すれば、「一つの中国」を尊重すると表明しているアメリカや日本は動けない。
このパターンこそ、今ウクライナで起こっている事態です。ロシアの当初の狙いも、キエフを電撃侵攻で抑え、ゼレンスキー大統領を失脚させることにありました。
ですが、似ているのはこれだけではありません。
【ロシアの夢と中国の夢】
9世紀から13世紀にかけて存在したキエフ大公国。今のロシア、ベラルーシ、ウクライナは、このキエフ大公国を祖としているのです。そして、10世紀のウラジーミル公が、キリスト教を国教にし、これがロシア正教の原点とも言われております。その後、紆余曲折がありましたが、この3か国にはそういう宗教的背景もあるのです。ちなみに、ロシア正教を信奉するプーチン大統領の名前はウラジーミル・プーチン。プーチン氏の野望もそんな歴史的背景と無縁ではないと思われます。
一方、中国にとっての台湾。まさに中華民族といった点で共通しており、日清戦争に敗れて日本に取られた台湾を取り戻し、台湾に逃げ込んだ蒋介石との戦いに最終決着をつける、それができるのは中国共産党しかない、習近平氏の「夢」にもこういう歴史的背景があります。
プーチン氏の言う「大国ロシアの復活」と、習近平氏の言う「中華民族の偉大なる復興」に、同じ響きを感じるのは、私だけでしょうか。
こう見てきますと、ロシアとウクライナの関係は、中国と台湾の関係に酷似しており、今回のウクライナ侵略がどう展開するかは、極東に位置するわが国にとっても決して他人ごとではなく、明日の台湾問題と言っても過言ではありせん。
【妥協できない日本】
結論を言えば、今回のウクライナ侵略がどんな展開になろうとも、それは、中国にとってのメッセージになるということです。どんなメッセージにすべきなんでしょうか。それは明らかです。今回の件をロシアの成功例にしては絶対にならないということです。おそらく、決着には時間がかかるでしょう。しかし、どんなに時間がかかろうと、プーチン氏のこの挑戦は失敗した、何としてもそう持っていかねばならないのです。
現下のウクライナ情勢は予断を許しません。制裁に加わっているわが国も、経済面、生活面などで返り血を浴びます。もちろん、政府がその影響緩和に最大限の努力をするのは当然ですが、ここは、力による現状変更を許し、それが極東に波及することになればもっと大きな禍を招くことになる、そういう意識で、他人ごとではなく、わが国も腹を据えて乗り越えていかねばならない、そう強く思っています。
令和4年3月23日
元農林水産大臣
衆議院議員 齋藤 健