自由民主党 衆議院議員 さいとう健 Official Site

ウクライナ侵略から考える安全保障

 3月23日の政策・意見では、ロシアのウクライナ侵略は、台湾有事に連動する可能性があり、何としても失敗したという結果にもっていかねばならない、というさいとう健の考えを書かせていただきました。

 今回は、その続編として、本件が、今後の世界の安全保障に大きな影響を与え、それはわが国にとっては厳しいものとならざるを得ない、という点について何点か指摘したいと思います。前回同様、少々長くなると思いますが、大事な話なのでご容赦いただければと存じます。

【破棄された安全保障合意】

 まず一つ目です。

 ソ連崩壊後、ウクライナがソ連から離脱したとき、アメリカ、ロシア、イギリスとウクライナとの間でブダペスト合意というものが締結されました。そこでは、それまで保有していた核兵器を全て領土内から廃絶するという約束をしたウクライナに対して、アメリカ、ロシア、イギリスは、ウクライナの領土保全又は政治的独立に対する脅威又は武力行使を控え、いかなる武器もウクライナに対して使用されないことを確約しました。同時に、中国も同様の約束を表明いたしました。

 つまり、ウクライナは、核兵器を放棄する代わりに、これらの国々から安全を保障されたのです。

 ところが、現実は、どうだったでしょうか。皆さん、ご承知のとおりです。ウクライナは、核兵器さえ廃絶してなければ、こんなことにはならなかったと、くやんでいるのではないでしょうか。

【核不拡散体制の崩壊?】

 次の点です。

 核保有国を増やさないという目的のために、核不拡散条約というのがあります。これは、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国といった核保有国以外の国々が核兵器を持たないようにという条約で、これによって、核の拡散が抑制されています。この体制のことをNPT体制と言います。現実には、インドのように条約に加盟していない国もありますし、北朝鮮やイランのような核開発を進めている国もありますので、きれいにはいかないのですが、曲がりなりにも、世界はこの体制によって、核の拡散をかなりの程度抑止してきました。つまり、この五か国がしっかりしているから、他の国は核兵器を持たなくても大丈夫だ、というのがNPT体制の本質なんです。ところが、この五か国の中に信頼できない国が出てしまった。ロシアが今回、核によって脅しを行ったことによって、この体制の信頼性は失われてしまったのです。今後は、自分も核兵器を持たないと心配だという国々が増えてくることでしょう。戦後、世界に核が広がることを抑止してきた制度の終焉の引き金にもなりかねないのが、今回の出来事なんです。

【米国は核保有国と争わないという前例に?】

 次の視点です。

 これが一番深刻かもしれません。核保有国に対しては、アメリカは軍事アクションを起こさない、あるいは、起こせないのではないか、ということが、結果として全世界に伝わってしまった。

 かつて、1990年に、イラクのサダム・フセインがクウェートを侵略したときは、アメリカは、地上軍まで送ってこれを阻止しました。しかし、今回のウクライナの件では、最初から一貫して軍の派遣を否定してきました。この違いは、どこから来るのでしょうか。それは、ロシアが核を持っているからではないでしょうか。下手をすれば、核戦争になりかねない、その懸念があるから、アメリカは軍事行動がとれなかったのです。このことが、全世界に伝わった。中国にも伝わった。中国は、核保有国です。果たして、中国はどう思ったでしょうか。

 また、北朝鮮は、どう思ったでしょうか。やはり、核が必要だと確信を深めたのではないでしょうか。

 今回のウクライナの件は、こういうメッセージになってしまっている可能性もあるのです。

【世界の警察ではなくなったアメリカ】

 次の点です。

 今回の件で、アメリカ、ロシア、中国、イギリス、フランスといった、いわゆる常任理事国が違法なアクションを起こしたケースにおいては、国連は機能しないということもはっきりしました。ただ、考えてみますと、国連の組織は、元からしてそういう組織でありました。にもかかわらず、曲がりなりにも世界がひどい状況にならないできたのは、サダム・フセインのクウェート侵略を抑えたように、アメリカが力で秩序を維持してきたからで、国連が機能してきたからではないのです。つまりは、今回このような蛮行が行われたのは、国連が機能しなくなったからではなくて、アメリカの力がなくなってきたというところに本質があるんだろうと、さいとう健は危惧しております。

【日本の安全保障戦略の見直し】

 このように、今回のウクライナ侵略の件は、わが国の安全保障に様々な点から、よくない方向で大きな影響を与える出来事となりました。政府においては、本件が起こる前から、本年秋には、安全保障戦略を策定する段取りになっていました。今回の件は、日本の安全保障について、今まで以上に踏み込んだ取り組みが必要になったことをはっきりさせた、さいとう健はそう思っておりますので、自民党における今後の議論において、自分なりの貢献をしたいと強く思っております。

 令和4年4月15日

  元農林水産大臣

  衆議院議員 齋藤 健



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